医療法人庄医院 院長 渡邉 亜希子
WFPチャリティエッセイコンテスト2021 佳作入賞
私が住む岡山では、5月17日にコロナワクチン接種が始まりました。
なぜ、こんなに正確に覚えているかといえば、私は小さな診療所の院長として、同じく医師である母とともに毎日ワクチン接種を行っているからです。
接種が始まった当初は、予約が殺到したため、予約と接種業務が重なり、体力的に限界を感じる日々が続き、気づけば家事はほとんど手つかずの状態でした。
私の主人も医師で、急性期病院でコロナ対応をしていたため、お互いに余裕のない中ではありましたが、ワクチン接種が軌道に乗るまでの1か月間、私に代わって、家事全般を、母と高校生の娘と協力しながら、こなしてくれました。
きっかけは忙しい日々の中で、私が急いで夕食の支度をしていた時、誤って小指を包丁で切ってしまい、しばらく水仕事が出来なくなったからでした。
以来、私は、小指の傷が癒えるまで、仕事先で母にありったけの手料理を持たせてもらい、さらに仕事から慌ただしく帰ってきた主人が作ってくれた男飯を並べて、家では大きな子供に戻ったみたいに、何もせずに、出されたご飯をただ美味しく食べていました。
最初は慣れない手つきで作る主人の料理に
「パパのご飯って、田舎のおじいちゃんが作ったみたいな地味な料理よね。」
と冗談まじりに言っていましたが、心の中では、疲れて帰ってきて、すぐに温かいご飯を食べられることに涙がでるほど感謝していました。
ワクチン接種は医師として当然のこととは思いますが、
「ここでワクチンを打ってもらえて本当に良かったわ。」
と患者様から、温かい言葉をかけていただくと、大変でしたが、頑張ってきて本当に良かったなと感じましたし、そんな何気ない声掛けの一つ一つが私の疲れた心に元気を与え、さらに母のベテラン料理と主人のたどたどしい男飯、そして料理を覚えたての娘が作ってくれる日曜の朝の定番オムレツが、心の元気とともに私の体の元気を作ってくれたと思っています。
みんな本当にありがとう。傷は無事に治りましたが、みんなのご飯、これからも楽しみにしてますね。
注)掲載にあたり一部改訂しました