医療法人庄医院 院長 渡邉 亜希子
2021年11月10日 岡山県医師会報 第1561号 掲載
10月某日の昼下がり、東京都内のホテルで、とある授賞式が行われました。誰もが知る女優さんたちや、元祖ご当地ゆるキャラがプレゼンターとして登場し、その模様は動画サイトでライブ配信されていました。
閑話休題、コロナ前の私は、「趣味・旅人」と書きたいくらい旅行が大好きでしたが、昨今の「医療従事者たるもの県境を超えるのはご法度」という風潮では、旅すること自体が無理なので、気づいたら、思いの丈を文章に書くことが新たな趣味となっていました
結果、度々コロナ関連のエッセイを医師会報へと投稿していたのですが、この春突然、「そうだ、試しにエッセイをコンテストに出してみよう!」と思い立ちました。
その中で目に留まったのが、エッセイを投稿することで、応募1作品につき90円が途上国の子供たちの学校給食支援につながるというチャリティエッセイコンテストでした。
そのコンテストは、趣旨もさることながら、受賞すると東京で行われる授賞式に出席し、憧れの女優さんに目の前でエッセイを朗読してもらえるという夢のような内容で、考えただけでも、心を揺さぶられるようなシンデレラストーリーでした。
かれこれコロナ禍も2年目に突入し、職場と家との往復の毎日だったので、「コンテストへの応募」や「東京での授賞式」といった聞きなれないフレーズに、それだけで、なんだか心が沸き立つようでした。エッセイの募集テーマも「こころのワクチン、私のごはん」という、どこか今の私に重ね合わせたような内容で、ワクチン接種に忙殺される日々の中で、自身が包丁で手をけがしてしまったことから、母や主人、娘にまで家事を助けてもらいながら仕事を頑張ったというエピソードを盛り込んで、気負うことなく、不思議なほど、すらすらと書き上げることが出来ました。
なかなかの自信作の完成に気を良くした私は、応募し終えた途端、一つの難題に直面しました。
「万が一受賞したらどうしよう」と、その時、まさかに毎年2万人の応募があるコンテストのわずか20人に入る心配をしたのです。
そこで、恥を忍んで、事務局にこんな電話を入れました。
「コンテストに応募したものです。仕事の都合もあるので、仮に受賞した場合、いつ頃知らせが来るものでしょうか?また、授賞式は東京のホテルとありますが、何時からですか?」と。
こんな問い合わせに、事務局の方もさぞ困惑されたでしょうが、私はいたって真面目に授賞式の詳細を聞き、人生に一度あるかないかのビックイベントにそなえ、念のため、授賞式の日程前後のワクチンの予約枠を設定から外し、自院の検査予約も止めることにしました。冷静に考えれば、応募した時点で受賞の心配をするなんて、どうかしていると思いますが、その時の私は本気で受賞するという夢をみていたのです。
こんな私のことを、はじめは笑ってみていた家族でしたが、少しずつ心配になってきたようで、ある時、主人から、こんなことを言われてしまいました。
「コロナの感染がこんな状況の中、本当に東京に行けると思う?僕は絶対反対だから!」
そうです。いつしか世の中はコロナの第5波の真っただ中になっていました。
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